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○古代史専攻(西洋古代ギリシア)だった ●日本神話好きな、▲馬お宅です!     ★墨絵マンガ「日本武尊」で  文化庁メディア芸術祭で推薦をいただきました。 オンラインワークココナラで活動中です! akhalkanzizazz@outlook.jp

2012年10月10日水曜日

  遊 弋


 "遊弋" ということばについて、なんとなく理解しているつもりではあったが、
 いままで 使ったことはなかっように思う。





 モンゴル共和国、ウンドゥルジレットの草原。
 午前5時。


ゲルから起きだした私は、千を超えると言われる羊と山羊の群れに直面した。
半分は寝ている、半分は周りを見ている、
というところだろう。 
ぬいぐるみのような仔山羊が、私の足元で転んだ。
彼らはすでにシルエットではなく、毛並みまでわかる。こちらを見る目と頭をせわしなく動かす者もいる。
モンゴル高原は、朝がはやいのだ。

 だが空を見て驚いた。
青灰色のうすあかるい中天に、上弦のみかづき。 その右肩に大きな星。
 左下離れたところに、ぽつんともうひとつ。 
空にはほかに青灰色と薄い雲のおりなす靄のほか、なにもない。
 3つの天体だけが、テングリ(空)に在った。



息がしずかにとおり過ぎる。
羊たちも、息をしていたのだろう?  私が歩くと、近く5m内の羊やヤギたち
はひょろひょろと立ち上がって、波のように移動する。
 人間という存在への、かれらの無意識のルールなのかもしれない。
なるべく彼らを動かさないように大回りに歩いた。
「 群れ全体を動かしてしまったら」という
ホームステイのゲル主への配慮もあったが、  ほんとうのところは
彼らのすべての1頭1頭の、3つの天体とこの世界を静かに観る権利を
犯したくなかったのだ。

宇宙が存在し、私とヤギたちが存在していた。
空には三日月とたったふたつの星。
 そして 、ゲルには、まもなく乳搾りをはじめる主婦、わがままタイプだが
チンギスハーンに似てるその夫、ツァー同行大学生と通訳ガイドも寝ている。 
わたしは、彼らの視線を感じていた。

ゲルの中の人々、そして世界のその他の無数の人間がのこらずここを見ている。
群を刺激しないように歩いてみた。
やはり羊の海はすこしさざめく。



 このあゆみを、"遊弋"と呼ぶのではないだろうか?


いな、、われわれを見ていたのは、  
たった一つの目だったかも、しれない。
ひとが神と名付けた、そのものの
目だったかもしれない。